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QUICK特別セミナー第4回

寺島実郎氏が語る
「世界の構造転換と日本の進路」

株式会社QUICKは2010年3月12日、東京都内で「QUICK特別セミナー第4回」を開催し、財団法人日本総合研究所会長の寺島実郎氏が講演しました。テーマは「世界の構造転換と日本の進路〜マーケットの行方を読む」。寺島氏は日本の貿易構造に大中華圏の急成長が反映されている点を指摘。その上で、グリーン・ニューディールの成功が米経済の復活の鍵を握っているとの見方を示しました。講演の主な内容は以下の通りです。

 

世界経済に再びマネーゲームの予感

 
寺島実郎氏
寺島実郎氏

海外から日本を見たときにいつも思うのは、日本ほど悲観論に満ちた国はないということだ。世界同時成長とも言える2008年までと一転し、2009年の世界の経済成長率はマイナス2.2%に落ち込んだ。では2010年はどうかというと、1月時点で全世界の成長率見通しは3.0%のプラス成長。2月の見通しでは3.1%成長と、1カ月の間に0.1ポイント上方修正される状況となっている。
特に好調なのが中国とインド。中国は09年(改定値)の8.7%成長から今年は2月時点で9.8%成長が見込まれている。インドも昨年の6.8%成長から今年は7.9%成長の見通しだ。リーマンショックでマイナス成長に落ち込んだ2009年から一転し、世界は各国の財政出動、超金融緩和もあって数字の上では驚くほどの成長軌道にリバウンドしつつある。
そうした世界経済には「マネーゲームの予感」が見て取れる。ニューヨーク原油先物市場のWTIを見ると、2008年7月に付けた最高値が1バレル147.3ドル。その5カ月後の同年12月に32.4ドルにまで落ち込んでいたが、今年1月末には72.9ドルにまで戻してきた。「ピーク時の半額」という見方もうそではないが、「ボトム時の2倍」でもある。マネーの動きに左右されてエネルギー価格が乱高下している様子が表れている。
 

日本で気になる川下デフレ

 
日本でも企業物価指数を見ると、素材原料など「川上」の価格は2009年はじめと比べると上昇してきた。しかし、最終財の価格は下落傾向が続いているほか、中間財価格も下落している。「川下デフレ」は深化しつつある。
日本で最終消費財が売れない一因として、労働者の可処分所得が減っていることがある。2008年の統計を見ると、パートやアルバイト等非正規雇用者のうち、いわゆるワーキング・プアに該当する年収200万円以下は1305万人。さらに自営業者や正規雇用者で年収200万円以下の人を加えると、労働人口6376万人のうち2196万人。1億総中流の実に1/3強がワーキング・プアという国家になってしまったということである。
この背景には、IT(情報技術)を利用した労働の平準化がある。物流にバーコードを導入するなど誰でもできる仕事が増えた結果、労働力が国境を越えるというグローバル化も起きた。この結果、可処分所得の減ったサラリーマンの苛立ちは、昨夏の政権交代にもつながった。
鳩山政権が掲げている子ども手当てや高校授業料の無償化には期待感が高まっているが、社会政策論なのか景気対策かを決めておく必要がある。北欧のように子どもを生み育てやすい環境づくりへ覚悟を固めているならよいが、政策論がポピュリズムに左右されるようでは大きな問題を残す。ドイツではワイマール共和国のあとにヒトラーが台頭するなど、ポピュリズムがその後のファシズムにつながった歴史があることも忘れてはならない。
 

「大中華圏」の台頭は日本の貿易構造も変えた

 
この20年間で、貿易相手先として米国の比重の低下と中国をはじめとするアジアの拡大が明確になった。2009年の貿易総額に占める比率は米国の13.5%に対し、中国は20.5%。中国本土に香港やシンガポール、台湾を加えた大中華圏(グレーター・チャイナ)では3割強を占めた。中国の台頭が日本の貿易構造を変えた形だ。
中国経済が台頭してきた背景には大中華圏というネットワークで捉える視点が重要だ。中国は1997年の香港返還を内乱なく乗り切ったうえ、台湾の先端技術を積極的に取り入れるために関係も改善してきた。香港での混乱や、台湾海峡での緊張が続いていたら、いまの中国経済の発展は見られなかっただろう。
21世紀の国家観としてバーチャル国家があり、シンガポールをどう理解するかで世界観が変わる。シンガポールの購買力平価はすでに日本を凌駕しており、バイオや医療技術など世界の先端を走っている。もう一つのネットワークが、「ユニオンジャックの矢」だ。ロンドンと、英国に縁の深いドバイ、インドのバンガロール、シンガポール、シドニーをつなぐとほぼ一直線になる。このネットワーク上の都市は英語圏であるうえに法制度や文化をも共有しており、ビジネスを融合するための共通点がある。シンガポールは大中華圏の南端であり、ASEANの窓口であり、ユニオンジャックの矢との交点でもある。
私の古巣である三井物産は今年、サンフランシスコの拠点を3月いっぱいで閉鎖。日本の商社が日米貿易で儲ける時代は終わったようにも見える。大中華圏のようなネットワークの形成が、冷戦終結後の「敵が見えない時代」の成長モデルになり得るのではないか。
ユニオンジャックの矢
出所:「世界を知る力」寺島実郎著(PHP新書)
 
 

米経済の鍵握る技術パラダイムの転換

 
だからといって、このまま米国が沈む訳でもなさそうだ。世界の銀行ランキングトップ10のうち日本の銀行が9行を占めていた1980年代末、やはり現在のように米国の衰亡論一色だった。東京の書店には「アメリカに未来はない」といった本ばかり並んでいたのを記憶している。しかし90年代、IT革命を通じて復活した米国を、われわれは見ることになる。
IT革命とは「米国が主導した冷戦後の軍事技術のパラダイム転換」と言える。米オバマ大統領が提唱する「グリーン・ニューディール」はIT革命のようなパラダイム転換をもたらすのかどうか。エネルギー政策の専門家の間では「太陽光や風力といった小型・分散の再生可能エネルギーに何かを期待できるのか」と冷ややかな見方も少なくない。しかし、たとえばEV(電気自動車)には、むしろ「小型・分散」がふさわしいのではないか。
米グーグルが次世代送電網(スマートグリッド)に本気で参入し、各家庭で発電した電力を双方向に配電する取り組みを進めつつある。これは、コンテンツの増大でグーグル自身が利用する電力量も無視できない大きさになるとの見通しがあるためという。
もし米国が「物語」を作ることに成功したならば、1年程度の短期間で米国の行方を変える可能性もある。再生可能エネルギーは「IT革命再び」のようなパラダイム転換につながるような、大きな意味をもつ可能性も意識してみている。
QUICK特別セミナー第4回 寺島実郎氏が語る「世界の構造転換と日本の進路」
QUICK特別セミナー第4回
寺島実郎氏が語る「世界の構造転換と日本の進路」

 

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