|
|
トップ > 株式 > 中国・アジア新興国特集 > 中国経済と投資のトピックス 中国・アジア新興国特集 [ 中国経済と投資のトピックス ]ソーシャルブックマークに登録:
【第10回】中国の観光業―消費拡大の起爆剤―中国人観光客の消費力が注目されている。海外では多くの国や地域が中国人観光客の誘致に躍起している。中国国内も地方が競って観光資源を開発、整備し、観光客を呼び込む。中国の観光業の発展状況を探ってみる――
急成長する中国の観光業 中国の観光業は急成長を遂げている。2009年の観光業収入は1兆2,895億元(約18兆円)と、1兆元の大台に乗った。2000年から09年までの10年間の年平均伸び率は12.4%で、特に05〜09年の5年間は年平均13.5%増に達している。中国の観光業は訪中旅行(インバウンド国際観光)、中国人の海外旅行(アウトバウンド国際観光)、国内旅行の3市場に分かれている。近年、その構図に変化が見られる。訪中旅行者数が伸び悩む傾向にあるのに対し、国内旅行と中国人の海外旅行は着実に増えている。 訪中旅行者数は、世界景気減速を受け、2007年の1億3,187万人をピークに、08年、09年と2年連続の減少となった。旅行者数に占める訪中旅行者のシェアも00年の10%から09年に6.1%に低下した。一方、中国人の海外旅行者数と国内旅行者数は、世界金融危機が勃発した08年以降も増勢を保っている(図表2)。中国政府は、外貨獲得等を目的に改革開放を実施した70年代末より外国人旅行者を受け入れたが、中国の経済発展に伴い、国内旅行に続き、中国人の海外旅行も普及し始めた。 所得と休日の増加や規制緩和の後押し 中国の観光業のめざましい成長の背景には、個人所得の増加、消費意欲の高まり、旅行関連の規制緩和などがある。中国の1人当たりGDPは2008年に3,000ドルを突破し、一部の地域では5,000ドル以上に達している。なかでも約4 億人にのぼる中間所得層(世帯あたり年間可処分所得が5,000ドル超〜35,000ドル)は観光をはじめ様々な消費の原動力となっている。 中国政府の積極的な姿勢も観光業の発展の後押しとなった。休日の増加とりわけ1999年に「国慶節」(建国記念日、10月1日)、2000年に「労働節」(メーデー、5月1日)の時期に7日間の大型連休を導入し、これに従来の旧正月(西暦の時期は年によって変わるが、大体1〜2月の間)の約1週間の休みを加えると、年間3回の「黄金周」(ゴールデンウィーク)ができ、国民は比較的長い期間の旅行を楽しむことが可能となった。中国人の海外旅行に関していえば、海外旅行を取り扱う旅行代理店の増加、パスポート発行手続きの簡素化、持ち出し外貨の限度額の引き上げのほか、諸外国・地域と観光協定を結び、渡航先を増やすなどで、海外旅行に行きやすくようにした(図表3)。こうして現在、一部の国・地域を除き、団体旅行の形が中心だが中国本土の国民は基本的に自由に海外旅行ができるようになった。 勢い増す中国人の海外旅行
国内旅行と訪中旅行者に比べ、中国人の海外旅行者はまだ数が少ないが、その増勢は注目に値する。2000年の1,047万人から09年に4,760万人へと約5倍も増えた(図表4)。2010年には5,000万人を突破することがほぼ確実となった。渡航先は、約75%が香港・マカオで、アジアと欧米はそれぞれ約10%前後と推計されている。 中国人旅行者の海外での買い物ぶりは目を見張る。香港では、中国人旅行者の買い物金額は日本人の1.8倍で、多くの高級時計・宝飾店の大半の顧客が中国本土の旅行者である。日本でも、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、中国人旅行者の日本訪問中の1人当たり買い物代は9.47万円とトップで、2位のロシアの6.82万円と3位以下の4万円台を引き離している。中国人の海外旅行は今後さらに勢いを増す可能性が高く、「買い物」天国の香港は中国人旅行者の旺盛な購買力の恩恵を大いに受けよう。 観光大国を目指す 中国の観光産業は今後一層発展するだろう。世界観光機関(UNWTO)は、2015年までに中国は外国人訪問者数で世界第1位、自国民の海外旅行者数で第4位、そして世界最大の国内旅行市場を持つ、「観光大国」になると予測している。 中国政府も観光産業の更なる発展に力を入れている。2009年12月1日に国務院(内閣に相当)は「観光業の発展の加速に関する意見」を発表し、その中で観光業を戦略的基幹産業として位置づけた。「意見」は、観光の利便性向上のための観光地を結ぶ交通網の整備、観光地のインフラ整備のほか、農村観光やエコツーリズム、「古村古鎮」(古い町村)観光、医療観光など観光商品の多様化を打ち出した。さらに、2015年の国内旅行者数を33億人(年平均10%増)、1泊以上の訪中旅行者数を9,000万人(同8%増)、中国人の海外旅行者数を8,300万人(同9%増)に増やすとともに、観光業収入を年平均12%増、観光業の付加価値の対GDP比を4.5%にするなどの目標を掲げた(図表5)。 観光業はすそ野の広い産業で、関連の商品・サービスは出版物、旅行代理店、トラベル用品、航空や鉄道等の輸送手段、保険、金融、ホテル・飲食店、食品・飲料、携帯端末、観光スポットの管理・運営、工芸品・特産品、各種消費財など多種多様にわたる。観光業が発展すれば、こうした観光関連の商品・サービスのビジネスチャンスも広がる。また、中国は主に輸出と投資に依存して成長してきており、高い経済成長率を続けている半面、都市と農村、沿海と内陸の所得格差が拡大している。消費刺激や雇用創出の効果が大きい観光業の発展が加速すれば、中国が目指す消費主導型経済への転換も自ずと実現しやすくなる。さらに、旅行を通じてヒト、モノ、カネ、情報の流れが活発になり、国や地域の発展を促進するという点においても意義が大きい。中国の農村部や内陸部、少数民族地域には多くの観光資源が存在しており、こうした地域への観光誘致は地域経済の活性化につがなり、地域間の格差縮小にも役立つ。 執筆:株式会社ニーズ 李 粹蓉(掲載日:2011年12月24日)
プロフィール : 李 粹蓉 り すいよう 株式会社 ニーズ キャピタルデザイン 主席研究員 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13 年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。 この特集のバックナンバー
|