中国・アジア新興国特集 [ インドを知ろう ]

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【第9回】

インドの環境問題はビジネスチャンス

インドは温暖化ガスの排出量で世界第4位。経済拡大でますます排出量は増加せざるを得ない。太陽エネルギーの利用や原子力技術で世界最先端を行く日本にとって、エコ技術をインドに提供するという、大きなビジネスチャンスがめぐってきている。



工事現場で働く女性。素手でブロックを運んでいる  

昨年(2009年)9月開催の国連総会に主席したインドのクリシュナ外相は、「インドには1日1ドル以下で暮らす人が2億人おり、約5億人の人が無電化の生活をしている」との発言をした。自国の恥部を人前、それも国連の場でさらすことを何故やったのか。その答えは、国連総会の3カ月後にデンマークの首都コペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組条約のCOP15(締約国会議)にあった。会議の目的は、1997年12月に京都で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議で採択された京都議定書に定めの無い2013年以降の地球温暖化対策を決定し、各国の同意を求めるというものであった。しかしインドは独自目標を設定するとともに、同会議に先立つ12月3日、インド国会下院でラメシュ環境・森林担当国務相(専管)は「総排出量の上限規制は受け入れられない」との趣旨の答弁をしている。当然のことで、総排出量規制を受け入れた場合、無電化の生活を余儀なくされている人たちの生活向上を放棄することになり、政治家としては絶対に譲れない。では一体インドは環境問題に配慮しつつ、どうやって貧しい人の生活水準を引き上げていこうというのか。この辺を踏まえると、先進国はもとより、新興国においても最新技術を駆使したエコな産業発展を心がけていかなければならないことから、それに関連して膨大なビジネスが生まれてくる。



就労人口の6割以上を占める農業(第一産業)はGDPの2割弱しか生み出せない  

インドでは停電が日常茶飯事なため工場などでは自家発電が当たり前で、そのために日々環境汚染が進んでいる。しかし、人口の約半分が25歳以下で、日本の20倍以上もの若者が毎年成人するインドでは、未だに国内総生産(GDP)の2割程度しか稼げていない第二次産業(製造業)の拡大による労働人口の吸収に頼らざるを得ない。なぜなら、初等教育もろくに受けていない若者が、IT(情報技術)などのサービス産業に従事するのは困難だし、就労人口の6割以上でGDPの2割弱しか生み出せない非効率な農業(第一産業)に更なる労働力を投入するのはばかげているからだ。したがってインド政府には他に選択肢は無く、製造業の発展に全力を傾けざるを得ない。例えば、自国を小型車製造のハブにしたいというのがインド政府の方針だが、そのために従来の手法を踏襲していたのでは環境汚染が進むだけである。また、インドでは「ルールの無いのが交通ルール」と言われるくらい交通マナーが悪い。そのため、全国で年間10万人以上の人が交通事故で亡くなり、首都デリーだけでも交通渋滞のためのアイドリングで毎日1億円程度の損失(無駄なガソリンの消費)が出ているといわれる。両者を考えたとき、前者ではCO2削減のための新エネルギー、すなわち太陽光や原子力などの導入促進が図られ、後者では自動車教習所の完備や道路の立体交差化などのビジネスが拡大しよう。自動車の製造そのものに関しても、ヨーロッパ排ガス規制(ユーロIV)の導入により、エンジン部品などの精度を上げる必要があり、ここでも日本の最先端技術が求められることになる。



交通渋滞のためのアイドリングで無駄なガソリンが消費されている  

マンモハン・シン首相は2008年6月30日、気候変動に関する国家行動計画発表に際し、「インドの経済発展と国民の生活水準の向上を図るための電力獲得のため、太陽光発電の開発を進めます。この行動計画が成功したときインドの社会が変わり、世界中の人々の未来も変えるでしょう」と述べた。その発言の裏には、インドの電力の52%が石炭によるもので、そこから排出されるCO2の量が2030年には、世界の総二酸化炭素排出量の7%にもなるとの試算があるからだ。そのためインド政府は2009年11月、「ジャワハラル・ネルー太陽エネルギー利用国家計画(ソーラー・ミッション)を閣議決定し、初期投資としての予算(433億7千万ルピー、約900億円)を承認した。この国家プロジェクトを世界中が注目しており、日本政府も今年1月にインド政府と34カ所で「ソーラーシティ」を建設し、再生可能エネルギーの開発と利用に向けた協力関係を強化することで合意している。その一方で、インド最大の砂漠地帯を抱える西部ラジャスタン州では現在、72社が太陽光発電事業を申請しており、こうした事業が計画通り進めば、250万キロワットの電力が生まれ、総投資額は1兆円近くにもなる。

原子力に関しても日本政府は6月25日、インドとの原子力協定の締結に向けた交渉を開始すると発表し、28日には両国政府による第1回会合を日本の外務省で開いている。原子炉の圧力容器で高い技術を持つ日本無しでは欧米などのメーカーによるインドへの原発輸出ビジネスが成り立たないことから、米仏政府などから日本政府への圧力もあるという。是非論は別にし、まさにビジネスが政治の世界をも変えかねない時代になり、これからは環境問題に関連したビジネスでの日本企業の活躍が大いに期待できる。



(掲載日:2010年07月27日)

プロフィール : 島田 卓 Takashi Shimada
株式会社インド・ビジネス・センター 代表取締役社長
1948年埼玉県生まれ。1972年明治大学商学部卒業後、東京銀行ニューデリー支店次長を経て、1997年より現職。講演やTV、ラジオ等のメディア出演ほか、新聞、雑誌等への寄稿多数。著書に「日本を救うインド人」(講談社)、「スズキのインド戦略」(監訳/中経出版)、「超巨大市場インド」(ダイヤモンド社)など。


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