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かば子

中国・アジア新興国特集 [ ベトナムの素顔 成長力を読み解く  ]

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【第14回】

成功体験しか知らないベトナム ネガティブ要因とは

「ベトナムは、成功体験だけを積み重ねてきた」と、よくいわれる。苦境にあっても乗り越えることができる強さ、逞しさ―――。しかし世界経済の大きな枠組みのなかに身を置けば、これからのベトナムには予期せぬ困難が待ち受けているのかもしれない。ジェトロの調査・分析、インタビューをもとに、ベトナムにおける投資上のネガティブ要因、カントリーリスクにフォーカスした。(取材協力:JETRO日本貿易振興機構)


チャイナ・プラスワンを経てミニ中国化したベトナム そして今

中国投資のリスク回避国としてベトナムが注目されてから、早や5年が経過する。そもそもチャイナリスクが叫ばれるようになったのは、中国が人民元の切り上げに踏み切った2005年のこと。この夏、小泉元首相の靖国参拝を契機に反日運動が高まり、アジアの生産拠点を中国一国に頼ることにリスクがあるとの認識が、チャイナ・プラスワンという発想をもたらした。そしてプラスワン(代替地)の筆頭候補にあげられたのが、親日度の高いベトナムである。

しかしベトナムが力をつけはじめると、チャイナ・プラスワンという捉え方にも秋風が吹くようになった。現地に進出した外資系企業に適用される法定最低賃金は、年を追うごとに上昇。2008年には100万ドンだったものが、2009年には120万ドン、2010年には134万ドンにまで跳ね上がり、もはや低賃金だけを目的にベトナムへ進出するのは困難な状況になりつつある。近年ベトナムでは労働ストライキが各地で起きるなど、労務におけるリスクも抱える。着実に、ベトナムの「ミニ中国化」は進んでいたのである。

とはいうものの極めて最近では、チャイナリスクの本質、中国ビジネスの難儀さを再認識する日本の経営者も増えている。人民元相場への不安感や賃金上昇という抗しがたい圧力に、やはりリスク回避地としてのベトナムが在る。屏風の向こうのベトナム。そして屏風に描かれるのは、まぎれもなく巨龍なのである。


政策・制度がコロコロ変わる ベトナムのカントリーリスク


日本貿易振興機構(ジェトロ)
海外調査部
アジア大洋州課課長代理
馬場雄一氏

「ベトナムの政策はコロコロ変わる」という言葉を聞いたことはないだろうか。特に産業政策における制度の変更や見直しは、現地に進出する企業にとって多大なる機会損失を招くこともある。

つい昨年は、突然の税制変更でベトナムの自動車産業界に衝撃が走った。日本製の多目的車(MPV)は、おもに贅沢品に課せられる特別消費税が、セダンなどの他車種に比べ低率だったこともあり人気を呼んでいた。増産を繰り返すさなか、ベトナム政府は急な税率の見直しを行った。セダンを中心に、排気量の低い車種を税優遇する新制度を導入したのである。販売店ではMPVタイプの売上がパタリと止まってしまった。売れ筋がシフトしたのである。

しかし部品の調達には、最低でも3ヵ月はかかる。税優遇の対象となる排気量2000cc以下の乗用車は、入荷待ちの状態が続いた。消費者の購入意欲がそがれ、自動車販売台数は軒並み減少。他方で政府は、乗用車の登録料を大きく引き下げるという景気刺激策に打って出た。

もとは深刻な交通渋滞を抑えるために、乗用車登録料を段階的に引き上げていたにもかかわらず、またもや方向転換である。政策の一貫性のなさに、指摘の声があがった。

こうした政策リスクについて、ベトナム経済に詳しいジェトロ海外調査部アジア大洋州課の馬場雄一氏は、「国のビジョン・計画・戦略・マスタープランはあるものの、産業セクターによっては、それらを実行性ある政策に落とし込むなど、行動計画が明確ではない」と語る。省庁横断的な課題に、迅速に対応する政策プロセス。そして体制が、今のベトナムには求められている。


2018年アセアン域内の関税撤廃が大きな分水嶺となる

2018年、アセアン域内の関税が、ついに完全撤廃される。すでに段階的な引き下げが始まっており、対象品目の9割以上が2015年を目処に関税率ゼロになる。しかし乗用車における関税は2013年までの引き下げスケジュールしか未だ決まっておらず、2014年以降の引き下げに「ロードマップはまだ描けていない」と馬場氏。ベトナム自動車産業の行方は、現在のところ不透明と指摘する。

域内での関税がなくなると、生産拠点や輸出入の流れも大きく変わることが予想される。場合によっては周辺の生産大国、具体的にはインドや中国、タイなどにベトナムが呑み込まれる可能性もある。とりわけアジアのなかでベトナムは、自動車産業の後発国といえよう。関税が撤廃されれば、部品どころか完成車として、近隣の生産ハブから輸入することになるかもしれない。アジアにおける自動車産業再編の渦に、少なからずベトナムも巻き込まれていくだろう。

2020年にはモータリゼーションが訪れると目されるベトナム。2018年の域内関税撤廃は、ベトナム経済において一つの大きな分水嶺となることは必至といえる。

期待がもてる消費マーケット しかし制度リスクが参入を阻む

理想的な年齢別人口構成比と著しい経済発展から、魅力的な消費マーケットとして期待が寄せられる近ごろのベトナム。WTO加盟に期待外れの感が否めなかった中国と同じ轍を踏まないよう、WTO加盟にあたり、いくつかの公約が結ばれた。その一つ、流通・小売の分野において、外資100%企業の参入が2009年に解禁された。

 
 

WTO加盟以前、すでにベトナムへ進出していた外資やローカルの流通企業のなかには、ライバル社の新規参入に先手を打つため、ハノイやホーチミンの好立地・優良物件を陣取るなどの現象がみられた。しかし外資系流通企業の多店舗展開には、ベトナム特有の制度リスクが潜んでいる。

どういう制度リスクかというと、「2店舗目以降の出店には、政府の許可が必要」というもの。これは、地域特性にあわせケースバイケースで検討がなされるENT(エコノミック・ニーズ・テストの略)を指しているが、詳細規定は闇のなか。具体的な指針は発表されていない。

すんなりとは多店舗展開できない外資の流通業。こうした制度リスクは、ベトナムにはつきものだ。朝令暮改よろしく、たびたびの制度変更、政策の転換が目に余るベトナム。今後の成り行きが気になるところだ。


取材:千葉千枝子(掲載日:2010年08月19日)



プロフィール :千葉千枝子 Chieko Chiba
観光ジャーナリスト。東京成徳短大観光学講師。中央大学卒業後、富士銀行、シティバンクを経てJTB へ入社。96 年、有限会社を設立。旅と金融をテーマに、運輸・観光業全般の論評、執筆・講演活動を行う。著書に「JTB 旅をみがく現場力」(東洋経済新報社)など。
 

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